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危害要因分析・重要管理点(CCP)の決定
HACCPの中心は、危害要因分析と重要管理点(CCP)の決定です。危害要因分析で食品事故につながる危害要因(ハザード)を洗い出し、HACCPで管理する重要管理点として定めます。この重要管理点を適切に管理すれば、大きな食品事故は予防できるという仕組みです。ここでは、危害要因分析と重要管理点について詳しく解説していきます。
危害要因分析とは
危害要因分析は、食品の製造や調理工程などでどの工程を厳密に管理すれば、食品事故を防ぐことができるかを表すための分析です。ハザード分析ともいわれ、微生物などの生物学的危害要因、アレルゲンなどの化学的危害要因、金属片などの物理学的危害要因を製造・調理工程ごとについて考えます。
危害要因分析は危害要因分析表を用いますが、各工程でどの危害要因が考えられるかを洗い出し、その危害要因の消費者への影響と管理方法について考えていきます。重要管理点はどの工程を科学的に管理すれば、食品事故を防止できるのかを決定するポイントです。
例えば、レトルトカレーの製造の場合、レトルト殺菌工程、急速冷却工程、金属探知工程が、危害要因分析の結果、重要管理点になり得る工程です。
生物学的危害要因
生物学的危害要因とは、食中毒を引き起こす病原菌・ウィルスのことです。例えば、ノロウィルス、黄色ブドウ球菌、ウエルシュ菌、ボツリヌス菌、寄生虫などがあげられます。
生物学的危害要因の管理方法は、主に加熱殺菌です。一般的な加熱(芯温75℃・1分)で殺菌できない細菌や菌類等には注意が必要です。
化学的危害要因
化学的危害要因には、カビ毒、重金属、添加物、農薬、アレルゲンなどがあります。化学的危害要因の管理方法は、食材への混入を防ぐことや基準値を超えた量が混入しないことです。
食材の受入れ時に確認することや表示による管理をします。
物理学的危害要因
物理的危害要因は、食品への異物混入をイメージすれば分かりやすいかもしれません。例えば、金属片、ガラス片、硬質異物などの異物混入が挙げられます。食品に混入すると、喫食者がケガをする可能性があるものです。
物理学的危害要因の管理方法は、食材の受入時の目視確認や金属探知機などです。
重要管理点(CCP)とは
HACCPの重要管理点(CCP)とは、食品の製造工程で管理しないと、重篤な健康被害が発生する特定の管理工程のことです。一般衛生管理や標準作業手順で管理できるならば、重要管理点(CCP)の設定は必要ありません。
ここでは、「肉製品」と「学校給食用コッペパン」を用いて具体例を紹介します。
肉製品のCCP
肉製品を扱う施設では、微生物の残存や増殖に注目してCCPを定めることが普通です。
例えば、肉製品のトリミング不足による微生物の残存を危害要因と考えるならば、トリミング工程を「CCP1」と定めます。また、冷却不足による微生物の増殖を危害要因と考えるならば冷却工程を「CCP2」と定めます。
トリミング工程は標準作業手順で管理できるならば、CCPの設定は不要です。
学校給食用コッペパンのCCP
学校給食用コッペパンの製造過程では、加熱工程で芽胞生成菌の殺菌が可能なため、生物的危害要因に対するCCPの設定は必要ありません。
しかし、製造器具等から金属片の混入があり得るため、金属探知工程をCCPと設定します。
飲食店の場合の重要管理ポイントは?
飲食店HACCPは、メニューにある食品を危険温度帯の通過の回数でグループ分けし、グループごとに管理方法を決めます。
①メニューを分類する
メニューにある食品を危険温度帯の通過回数でグループ分けするとは、「非加熱グループ」「加熱グループ」「加熱と冷却グループ」に分けることです。
「非加熱グループ」は、野菜サラダ、漬物など。「加熱グループ」は、ハンバーグ、ステーキ、天ぷらなどです。「加熱と冷却グループ」は、スープ類、シチューが当てはまります。
②分類ごとに温度と時間を管理する
メニューの食品を分類したら、温度と時間に注意し管理方法を確立します。
「非加熱グループ」は、提供までの保管温度や交差汚染に注して管理方法を設定。「加熱グループ」は、食品の芯温が75℃1分以上の加熱殺菌をみたすように管理方法を決めます。「加熱と冷却グループ」は、加熱殺菌の温度・時間に加えて冷却温度・時間の管理まで考えます。
危害要因分析の重要性
ここでは、危害要因分析の重要性と重要管理点の決定について考えていきます。危害要因分析の過程と結果を従業員と共有することで、従業員の食品衛生意識が高まります。また、食品安全・衛生の優先順位が明確になり食品事故のリスクを低減できるほか、食品事故への対応も迅速化されます。
食品衛生の意識改善
食品安全・衛生は、各施設の食品安全チームが中心に役割を担います。しかし、食品安全チームでは、施設の食品安全・衛生は成立しません。そのため、食品安全・衛生を従業員に対しても教育訓練を通して浸透させます。危害要因分析の過程と結果を従業員に伝えることで、従業員はどこに注意すれば食品衛生が維持できるかが明確になり、食品衛生の意識改革を進められます。
食品安全・衛生の優先順位が明確になる
HACCPは危害要因分析を通じて、食品施設の食品事故リスクの優先順位を明確にします。危害要因分析で導かれる重要管理点は、一般衛生管理よりも意識して管理することが大切です。この危害要因分析で施設の食品事故につながる危害要因に対する対応が分かれば、食品事故の減少だけでなく、品質の改善につながります。
食品事故への対応も迅速化される
HACCPの導入をしても食品事故は完全に防ぎきれません。しかし、どの製造工程で問題が起こったかを直ぐに判断することが可能になります。例えば、金属片が混入していた時は、金属探知機の設定に問題がないかを疑うなど、明確に原因を洗い出すことができるのです。重要管理点に設定している金属探知機は、記録も義務付けられているので、万が一の場合は記録を見れば問題が分かります。もし設定に問題がないならば、従業員の作業上ミスの可能性が考えられます。食品事故の原因と対策を迅速に見つけ出すことができるのは大きなメリットと言えます。
重要管理点(CCP)を決定するには危害要因分析が欠かせない
食品事故のリスクを予防する重要管理点は、必ず設定しなければいけないわけではありません。重要管理点の設定は危害要因分析で決まるため、危害要因分析をするなかで、その工程の重要管理点候補がHACCP前提の一般衛生管理などでコントロールされているならば、重要管理点の設定は必要ありません。重要管理点の設定にしなければ、記録の作成も必要なく、オペレーション的にも負担が減ります。危害要因分析をして、食品事故に直接つながる工程だけを重要管理点にすることが大切なのです。
危害要因分析のポイント
危害要因分析は、製品説明書と製造工程図をもとに行います。ここでは、危害要因分析をするためのポイントについて考えていきます。
製品説明書の作成
HACCPに基づいた衛生管理では、HACCPチームの編成の次に製品説明書を作ります。この製品説明書では、製品に使われる原材料、添加物、アレルゲンなどを記載します。また、食品衛生法上の製品の分類・規格基準と保存方法・賞味期限も記載します。この製品説明書も危害要因分析の参考資料になります。この製品説明書を見ることで、原材料由来の潜在的な危害要因も分かります。例えば、化学的危害要因であるアレルゲンをどう管理するかなどです。
食品が使われる人、シーンを考える
製品説明書で重要なのが、製品の消費者です。例えば、老人向けや幼児向けの製品ならば、一般消費者とは異なる問題が起こる可能性があります。健康な成人に比べて体の機能が衰えている老人では、通常時は起こりにくい嚥下障害もあり得るからです。HACCPを取り入れる際は、食品の最終消費者を意識した安全意識まで考えることが大切です。
製造工程を全て確認し、製造工程一覧図を作る
製品説明書が作成できたら、危害要因分析をするためのもう1つの資料として、製造工程図を作成します。製造工程図は製品ができるまでをチャートで表した図です。工程ごとの危害要因を洗い出し、製造工程図を確認することで、重要管理点の候補となる工程が一目で分かります。
現場へのヒアリングによる資料の妥当性チェック
製造工程図と実際の工程作業が異なる場合、正確な危害要因分析はできません。そのため、製造工程図の作成後に現場と一致しているかを確認します。現場のスタッフにヒアリングし、その工程の問題点を把握していくとよいでしょう。作業現場で重要管理点の候補を確実に管理できていれば、重要管理点にしなくて良いケースもあります。
作成資料を使って危害要因を列挙する
製品説明書と製造工程図の資料から、危害要因分析をしていきます。危害要因分析の列は、工程、潜在的危害要因、重要な危害要因か否か、その工程で管理するか否か、重要管理点などを記載します。危害要因分析をする要素は、製品説明書と製造工程図に全てあります。
危害要因分析を行うときの注意点
危害要因分析はHACCP導入のために必要な要素ですが、かたちだけを整えてもHACCPの運用はうまくいきません。計画が現場で実際に稼働するかどうか、実際に確認することが大切です。ここでは、危害要因分析を行うときの注意点について考えていきます。
重要管理点(CCP)の特定や管理基準(CL)の設定を考えて実施
HACCPの導入を完成させるためには、危害要因分析で決定した重要管理点と管理基準が正確であることが必要です。そのために重要管理点と管理基準の妥当性確認を実施します。重要管理点の管理基準が守られたら、危害要因の被害を防止できることを科学的に実証します。
すべての担当者の認識共有
重要管理点の管理基準の妥当性確認ができたら、実際に現場の運用でその管理ができるかを評価します。正確な重要管理点の管理基準が守られても、現場の従業員が理解し、それ通りの実施をしていなければ、HACCPは機能しないからです。そのために、危害要因分析で示された情報を現場担当者と共有しておくことが大切です。
ページ監修:力丸修也
行政書士、JHTC認定HACCPリードインストラクターとJFS監査員研修修了。
HACCPコンサルタントとしては、レトルト食品会社、そうざい業、冷凍食品業者等の実績あり。
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